「花押は押印ではない」遺言書無効、最高裁が初の判断
平成28年6月3日、「花押」が、遺言書に必要な「押印」の代わりになるかどうかが争われた訴訟で、最高裁は「花押は押印とは認められない」として、遺言書は無効との判断を初めて示しました。
この裁判は、琉球王国の名家の末裔である沖縄県の男性が残した自筆証書遺言について、その有効性が争われました。
この遺言書には「不動産などの財産を次男に継承させる」と書かれていたのですが、長男と三男が遺言書の無効を主張し、次男は遺言が有効であることの確認を求めて提訴されていました。
自筆証書遺言は、遺言者が①遺言の全文②日付③氏名を自書し、これに押印しなければなりません。
この「押印」は、偽造や変造を避けるために実印を使うことがのぞましいのですが、認印のみならず拇印をもって足りるとの判例があります。
最初にこのニュースを見た時に「拇印でもいいのに花押はダメって、なんで?」と思った方も多かったのではないでしょうか。
で、少し花押について調べてみました。
花押は、署名の代わりに使用される記号または符号で、主に漢字文化圏にみられます。
5世ごろ中国で発生し、日本では10世紀ごろ(平安時代)から使用され始めたと言われています。
時代劇などでよく見かける戦国大名の手紙などは、名前の下に花押があるので、なんとなく署名と押印のようなイメージがありますが、文書を含めて名前まで右筆(祐筆)が書いて、自身は署名代わりに花押だけを書いているわけですね。
もちろん、手紙自体を自書するケースもありますが、本来の花押の役割は署名であり押印ではないということなのでしょうか。
自筆証書遺言は、普通方式の遺言の3つの様式中、最も作成手続きが簡単で費用もかからないことや、証人・立会人が不要なこともあり、人気のある遺言方式ですが、今回のケースのように法定の様式を欠くために無効となるケースがあるので注意が必要です。
また、様式に問題がなく有効であっても、その内容が不明瞭・不完全で、その解釈をめぐって紛争が起きるケースもままあります。
今回のケースも、様式に不備があったことで遺言が無効となってしまいました。
せっかく遺言書を残された遺言者にとっては、結果的にその最終意思の実現はできなくなったわけで、その観点からは残念な気がします。