平成8年の法制審議会の答申
平成3年から婚姻および離婚の制度の全般的な見直しを行うための審議が開始され、平成6年の中間試案の公表をへて、平成8年に「民法の一部を改正する法律案要綱」が法務大臣に答申されました。
この答申のには、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分と同じにすることも含まれていましたが、この法案は国会に提出されるに至りませんでした。
また、以下の項目についても検討されましたが、下記のような問題点が指摘されたため、いずれも要綱には盛り込まれませんでした。
①相続開始前の居住権の保護
【問題点】
ア)保護の対象となる居住不動産の範囲、名義人でない配偶者が正当な理由なく処分に同意しない場合の救済方法など、困難な問題が存在する。
イ)取引の安全を害する。
ウ)賃料を負担しなければならない法定賃借権を成立させるという方法が配偶者保護の手段として適当であるのか。
エ)居住用不動産の所有権名義人が相手方配偶者の同意なく、これに抵当権を設定し、その抵当権が実行された場合、その手続きの中で法定賃借権の成否をどのように認定するのか。
オ)賃借権の条件(存続期間、終了事由など)をどのように考えるのか。
②相続における居住権の保護
ア)夫婦の居住用不動産の処分制限に関して、居住用不動産である旨の登記を認めて、この登記がある場合は、生存配偶者は、死亡または再婚まで、その不動産に居住することができ、他の共同相続人の持分権の処分を取消すことができるものとする。
イ)生存配偶者は、共同相続人の持分について法定使用権を取得し、これを第三者に対抗することができるものとする。
ウ)生存配偶者に2分の1の相続分のほか、標準的な居住用不動産の価格の2分の1程度を限度として法律で定める金額の先取りを認める。
エ)被相続人死亡時に、被相続人およびその配偶者が現に居住していた不動産については、婚姻期間が20年以上の場合に限り、配偶者が承継するものとする。
オ)被相続人死亡時に、被相続人およびその配偶者が現に居住していた不動産については、婚姻期間が20年以上の場合に限り、配偶者の寄与分とみなす。
【問題点】
ア)昭和55年改正の枠組みから大きく踏み出すことはできない。
イ)取消権構成、法定使用権構成のいずれも、実体法および執行法上の観点から問題があるので、例えば配偶者の居住権という新しい物権の創設を含めた、財産法や民事訴訟法とも関連する抜本的改正を検討する必要がある。