遺言書の押印に代えて花押を書いたことが、有効か否かを争われた裁判に関連して、ちょっと「印章」の話です。
皆さん、印章(いんしょう)のことを普段なんて呼んでますか?
「印鑑」、「判(はん)」、「ハンコ(判子)」なんかが多いのでしょうか。私が使うのは、「印鑑」か「ハンコ」ですね。
他にも、「印(いん)」、「印判(いんはん」、「印形(いんぎょう)」、「印信(いんしん)」などとも呼ばれるそうです。
この「ハンコ」は、「印章」と呼ぶのが正式なのですが、われわれが普段よく「印鑑」と呼んでいるのは、正確な表現ではないのです。
印影と印章の所有者を一致させるために、印章を登録しますが、この「印影の登録簿」のことを昔「印鑑」と呼んでいました。
そこから、印鑑登録に用いた印章(いわゆる実印)を特に印鑑と呼ぶようになり、さらに銀行印や他の印象全般までが印鑑と呼ばれるようになったのです。
秦の始皇帝が、皇帝の持つものを「璽(じ)」、臣下の持つ持つものは「印」と呼ぶように定め、下って漢の時代に
丞相や大将軍の持つものが「章」と呼ばれるようになりました。
そして、これらの「印」と「章」を総称するものとして「印章」という単語が生まれました。
ところで、印章といえば志賀島の金印が有名ですよね。「漢委奴國王」と彫られたあの金印、誰しも写真などで一度は見たことがあるでしょう。
実物は福岡市博物館に所蔵されています。
さて、この金印は印文が陰刻(文字が白抜きになるよう)されています。
陰刻の方が加工しやすかったのかな、なんて漠然と考えていたのですが、実はそうではないのです。
金印が作成されたころ(三国時代ですから1世紀半ばです)、印章は「封泥」に捺印するために使われていました。
そういえば、先日九州国立博物館に兵馬俑展を見に行ったのですが、そこに竹簡に粘土で封をして捺印してあるのを展示していました。
陰刻した印章を粘土に押すと、文字が凸状になって現れます。
われわれが使う印章は、陽刻(文字以外が彫り抜かれ文字部分が印肉により現れる)が一般的ですね。
陽刻が一般的になるのは、紙と朱肉が普及するようになってからのことなのです。